未来2015年6月号

瘡蓋のやうな旧姓剥がれずに呼ばれればまた立ち上がりたり
仕事場は六階マンションは五階 ひねもす春の空中に浮く
みづからのはうへと向けて擦るマッチ 胸には容れることなきほのほ
夕映えはいつも後ろに手を振るがその貌をまだ見たことがない
流線を描くレールの輝きを夜の列車が追ひかけてくる
写真いちまい端から燃えてゆくやうに萎れてしまふガーベラの赤
浴槽の栓をゆつくり引き抜けば水とはみづに溺れゆくもの
都市と星それぞれに煌きながら一生涯を滅びゆくべし
眠るまではここにゐるからそれからはひとりの舟を曳いてゆきなよ

工房月旦にて、鈴木博太さんに2015年3月号の「この街を〜」「ページ捲る〜」の評をいただいています。

未来2015年5月号

「スプリング・オブ・ライフδ」
木香薔薇の配線は入り組みながらすべての花を灯してゐたり
にはたづみに降る雨のひとつ一粒が底の澱みを巻きあげてゐる
さんずいのごとき飛沫を蹴散らして鳥が飛びたつ春の波涛を
水の中にみづのわたしがゐるやうに真夜中きみのシャツを洗ひぬ
花びらは一枚ごとに離(か)れゆきてすべてが春の読点になる
いつか終はるいつかは終はるその日まであなたの髪に花を預けて
ページ繰るたびに光が天井に反射してゐる きみのゐる部屋
そして春 頬紅を差しあつてゐる姉妹のやうにわらふ二人は

工房月旦にて、鈴木博太さんに2015年2月号の「よく冷えた〜」「胸腔に〜」の評をいただいています。

刀剣男士×短歌

四月半ばにこんなものを作っていました。

【刀剣乱舞】「刀剣男士×短歌」イラスト/アヤノ [pixiv]

ゲームに登場するキャラクターと、これまでに「未来」に載せた歌を合わせはじめたらだんだん楽しくなってきて、最終的にこうなりました。

わたしにとって短歌をつくるというのは自己満足なところが大きくて、自分の歌を人に読んでほしいという気持ちがほかの人よりもたぶん薄いのですが、こういったかたちでそのへんに置いておいて見つけてくれた方があっいいかもみたいな感じで楽しんでくれたら、それは幸せなことだなあと思います。

これから実装予定の子もいるし、また次郎太刀の歌は差し替えたいなあとも思っているので、またどこかのタイミングで更新できたら。

あと、昭さんが今剣ちゃんを描いてくださってとても嬉しかった!

以下は、自分メモの初出一覧です。(面白くないです)

続きを読む

未来2015年4月号

「めぐり、めぐるΓ」
黄金(きん)の鍵と思ひてゐたり床に落ちしパンの留め具を手に取るまでを
ゆつくりときみが砂地に倒れれば影のかたちはきみに似てゐる
藤の花したたるままに手に受けてそのひとすぢを口に含みぬ
首もとに纏はる真綿ひき千切るやうに結んだ髪をほどけば
国道をとほく連なる信号が鳥に変はつてゆくのを見てゐる
同様に確からしいと言ふときをひとの瞳にきざすゆふぐれ
睡りつつゆけばかなしいとほい場所がなんだか近くなつてしまつて
みづうみに影をおとして飛ぶ鳥が生まれては死んでゆく花叢を
きみの胸がはだかの冬の草原であつた日のこと そばにゐたこと
ふるゆきの白梅町をなほ抜けてくれなゐにほふ紅梅町へ

新年会歌会記に歌を引いていただきました。岡井さんからいただいたコメント、忘れたくないものだったので嬉しかったです。