未来2013年8月号

「止まない雨」
止む雨と止まない雨を嗅ぎわける犬の襟首うしろより抱く
二人では溢れてしまふ風呂の湯のその過剰さをときに憎めり
貝殻の耳にくちびる近づけてさざ波のやうに歌つてあげる
きみの眠るベッドを抜けて強風に倒れた自転車起こしにゆく
思ひ出は眠つてるから足音を忍ばせてゆくほかにないから
雨音と思ひて眠るわたくしを一晩騙してゐたのだ川は
吸殻を拾ひあつめてゆくひとの躑躅の花を避けるあゆみに
結婚は生活だよと言ふときのだれかやさしい人の深爪
白き翅ふるはせて飛ぶ蝶々の震へることのできぬ胴体(からだ)よ
舌と舌結びあはせて形容詞として生きてゆくべきわたしたち

海彼通信にて、「静けさと心の熱さを内包しつつ、作者自身の身体と歌世界とがしっかり結びついた、実感に満ちた一連。歌世界に身体性がしっかり表れることは、歌人の強みになると思います。」と書いていただきました。秀逸は一、五、七首目。
工房月旦にて、桝屋善成さんに2013年5月号の「この庭に巻き貝が埋もれゐることのこはさをきみに全身で言ふ」について評をいただいています。どうもありがとうございます。