未来2013年10月号

「夕立ちよ」
夕立ちよ 美しいものことごとくこの世のそとに溢れてしまふ
花が降ることをあなたに言ふときに花降るとしか言へないことを
玉こんにやくの群れに右手を沈ませる不埒なことを考へたまま
腎臓に胞ありと告げられし日より水満ちる胞を抱きてねむる
撃たれたらそのまま鳥になつてしまふあなたはさういふ生き物だつた
輪転機まはれよまはれ性欲の高まりゆくに似たる駆動よ
塗りつぶす空白それを曇天と名づけてきみは眠りに就きぬ
薄闇にまばたくときを深淵はわれの外にも裡にもあらず
ぬばたまの君の瞳は鳥であり他になにもない夏の休日

工房月旦にて、桝屋善成さんに2013年7月号の「水の川をビニルのごとき鳥が行きあれは恩寵なのだらうね、と」について評をいただいています。
また、中川宏子さんによる6月号アンソロジーに、「踵よりやはらかき水したたらせ春のゆるみよいづこより来る」を再録していただいています。ありがとうございます。