未来2013年11月号

「それは花」
まだ君の声も知らないまひるまの列車の連結部のうへに立つ
咲く速さを枯れる速さが追ひこして花は盛りを通りすぎたり
煽られる髪を押さへて見送つた地下鉄の風 風のゆくすゑ
唇から漏れた気泡を追ふやうに空の水面を見つめてゐたり
真夜中をはこぶ郵便配達人そのよこがほの触れがたきこと
そらす顎の角度を追つて見あぐれば踊つて星になる子どもたち
左目をきつく押さへた手の中で何かが動く 鳥かもしれぬ
原子力発電所(げんぱつ)も棺も一基と数へゐるこの世の夜をひたに眠りぬ
足だけが君に向かつていく夢を見てゐた 遠い残照だつた
それは花 消えない色がまなうらを柔く照らして光るのならば

工房月旦にて、桝屋善成さんに2013年8月号の「きみの眠るベッドを抜けて強風に倒れた自転車起こしにゆく」について評をいただいています。
また、渡部光一郎さんによる7月号アンソロジーに、「水の川をビニルのごとき鳥が行きあれは恩寵なのだらうね、と」を再録していただいています。ありがとうございます。

また、今月号には連載「近藤芳美再読」シリーズとして「『磔刑』を読む」を掲載していただいています。お話をいただいたときは『埃吹く街』しか読んでいない状態だったので当然のことながら物怖じしましたが、なんとか書き上げることができてほっとしています。
大辻隆弘さんにお会いしたときに『磔刑』で書くことを言ったら「またハードな……」と遠い目をされましたが、わたしとしては最初に抱いた疑問を素直に追っていく書き方をしたので、それほどハードではなか……ったわけではなかったです(思い出してきた)。そもそも歌の読解ができなくて情けなくて泣きそうになったり、後期近藤にまつわる資料があまりなくて手探りどころの話ではなかったり。でも、こういう機会がなければ一冊の歌集を著者の人生と結びつけて深く読み込むことはなかっただろうし、とてもいい経験になったと思います。こういうチャンスがあるのはとても嬉しいことだとも。書くための時間をたくさんいただけたことも感謝したいです。
いつも通り文章を見てくれた某氏に感謝します。

そして、裏表紙にもお知らせがありますが、2014年未来新年会のシンポジウムにてパネリストをやらせていただきます。
歌集やら資料にまみれていた夏が過ぎ、歌集やら資料にまみれる冬が来ます。がんばりますのでどうぞよろしくお願いいたします。