未来2014年8月号

「想像上の夏」
国道の夜を渡ればひさかたの光の河を堰き止めてゐる
いちどでは読まれることのなき君の名前がきみを美しくする
しろたへの洗顔フォームは手のひらに地球の雲を生みだしてゆく
バスタブより深くからだを沈めつついつから世界に慣れたのだらう
にんげんに四肢あることのかなしみを持て余しては四肢のぶらぶら
いたましい、のなかのたましひ抱きながらベッドの余白に身を拡げゆく
草原のうすき胸へと耳を寄せ言ひたいことなどなんにもないの
海鳥をあふげば白く反り返るのみどよ喉おまへのことよ
両の手を翳してのぞむ水面は耀いてゐたあまたの嘘に
ゆふぐれの護岸工事に背を向けて想像上の夏を走るよ


未来評論エッセイ賞の発表号でした。選考会の白熱した様子を息を呑みながら読みました。わたしは五位という結果でしたが、初めての評論で講評までいただけてとても幸せなことでした。近藤さんについてはこれからまた向き合っていきたいと思っています。昭和という時代と短歌の関わりに興味があるので、その辺りも視野に入れながらいろいろ読んでいきたいです。

工房月旦にて、大田美和さんに2014年5月号の「ぐらぐらと〜」と「はつなつの〜」を引いていただいて連作全体への評をいただいています。