田丸まひる第二歌集『硝子のボレット』レジュメ

2014年10月18日、一橋講堂特別会議室にて行われた彗星集十一周年記念歌会に、田丸まひるさんの第二歌集『硝子のボレット』のパネリストとして参加させていただきました。わたし以外の皆さんが彗星集、くわえて自分がいちばんのひよっこという、どアウェイにもほどがある状況(一日転校生って書いたけどよく考えてみたらそれどころじゃなかった)でしたが、どうにか役目を終えることができました。
彗星集の皆さま、どうもありがとうございました。

以下、わたしなりの解釈による『硝子のボレット』についてのレジュメです。『硝子のボレット』、いろいろな読みかたができる興味深い歌集だと思います。実際、人によって読みかたがこんなに変わるのかと、わたしも他の方のお話を聞いていて思いました。たくさんの人に読まれますように。

 『硝子のボレット』田丸まひる 資料
                              飯田彩乃
★第一歌集からの十年
 桃色の炭酸水を頭からかぶって死んだような初恋(P13)
★方向性―職業詠を含む身辺詠
 こいびとのひとりも助けられないと職業的に困るのかしら(P38)
 昨日あなたのくちづけ受けた襟首もほんとも嘘も白衣にしまう(P42)
 髪に火を、ではなくて刃を入れながら朝の外来リストをたどる(P122)
★対象との距離のとり方としての敬語
 こなぐすり飲むときだけは少年の時代の顔を見せるのですね(P19)
 連れられて渚に行けばお互いの裸足はじめて見るのでしたね(P26)
 そんな軽いかばんひとつで会いに来てわたしを入れますか入れませんか(P63)
 くちびるはデザートだから最後まで残す遊びをしてみませんか(P45)
★うらがわ、うちがわへの希求、内在したいという願望
 裏側に入れてほしくてあたらしく覚えてしまう脚の曲げ方(P9)
 足裏にふれる権利をいただいて砂粒ぬぐうきらきらぬぐう(P48)
 膝裏の熱に気づいてもらえたら祝祭はもう終わり始める(P72)
 うちがわも洗ってほしい底冷えのかなしみを経てゆるむ関節(P72)
★あらゆるものを引き寄せようとする意志
 そうですね 海底の砂舞い上がりまた積もるまでじっと見ていた(P69)
 雪に降る花の話をしてほしい 指のあいだにふれている間に(P114)
 きみの目にすみれの匂う墓地がある ひとを内側から刺したいよ(P115)
★硝子のボレットという欲望
 何度でも生まれ変わって硝子製の爪がほしい強い爪がほしい(P66)
 寒雷の夜に切る爪 からだから遠ざかるものすべてを悼む(P57)
 レトリック、できればたった一片の氷の弾丸(たま)に撃ち抜かれたい(P103)
 ずっととけない氷がほしいあなたとはほんとうに家族になりたかったんだよ(P103)
 愛してるどんな明日でも生き残るために硝子の弾丸(ボレット)を撃つ(P130)
★次の十年、あるいは百年
 冷えていく余命まだあと百年はあると信じてすするフルーチェ(P88)