未来2014年12月号

「ライティングβ」
吸ひながらまた吐きながらいちにちは余白の多いページのやうだ
傘の字はとつても差しやすさうなのに雨のわたしの手に傘がない
嗅覚が鈍くなつて、と書くときのまたたく視野のかたすみに犬
書くことは足を向けるといふことで川の向かうの工事現場よ
舌に咲く花つぎつぎに吐き出だすひとを思へり味蕾の文字に
千のこゑ万の言葉に滅びたるひとつの国が胸底にある
指さきを鋭く裂いてくれさうな明朝体の尖りを撫でる
〆切の喫水線は上がりつつけふの一日を眠りつづけて
遠からずかむるしかばねかんむりを今はただしく書いてやるのみ
新しい本を開いて文字をおへば匂ふ下草踏みゆくごとし