未来2015年1月号

冬の陽のやはらかく差す図書館にわたしが目覚めるのを待つてゐた
ありつたけの海を満たした眼にはこの街の灯はひどく寂しい
くれなゐの金魚ほのほの如く揺れ蓮の葉蔭に消えてしまへり
ここにゐないひとの上着の両腕が椅子の後ろに結ばれてゐる
新宿を雨後の森だと思ふときわたしの腕に伸びゆく菌糸
書き終へて閉じたノートをすこし圧す 見えない花が挟まつてゐる
手のひらを真昼の空(くう)に泳がせて蝶の記憶を浚つてゐたり
明日死ぬ星のいのちを抱くやうにきみの頭蓋をかかへて眠る
  不動哲平さんに
背の高いあなたが立つてゐる場所がいつか会ふ日の目印になる

みらいプラザ掲載でした。