未来2015年4月号

「めぐり、めぐるΓ」
黄金(きん)の鍵と思ひてゐたり床に落ちしパンの留め具を手に取るまでを
ゆつくりときみが砂地に倒れれば影のかたちはきみに似てゐる
藤の花したたるままに手に受けてそのひとすぢを口に含みぬ
首もとに纏はる真綿ひき千切るやうに結んだ髪をほどけば
国道をとほく連なる信号が鳥に変はつてゆくのを見てゐる
同様に確からしいと言ふときをひとの瞳にきざすゆふぐれ
睡りつつゆけばかなしいとほい場所がなんだか近くなつてしまつて
みづうみに影をおとして飛ぶ鳥が生まれては死んでゆく花叢を
きみの胸がはだかの冬の草原であつた日のこと そばにゐたこと
ふるゆきの白梅町をなほ抜けてくれなゐにほふ紅梅町へ

新年会歌会記に歌を引いていただきました。岡井さんからいただいたコメント、忘れたくないものだったので嬉しかったです。