未来2015年6月号

瘡蓋のやうな旧姓剥がれずに呼ばれればまた立ち上がりたり
仕事場は六階マンションは五階 ひねもす春の空中に浮く
みづからのはうへと向けて擦るマッチ 胸には容れることなきほのほ
夕映えはいつも後ろに手を振るがその貌をまだ見たことがない
流線を描くレールの輝きを夜の列車が追ひかけてくる
写真いちまい端から燃えてゆくやうに萎れてしまふガーベラの赤
浴槽の栓をゆつくり引き抜けば水とはみづに溺れゆくもの
都市と星それぞれに煌きながら一生涯を滅びゆくべし
眠るまではここにゐるからそれからはひとりの舟を曳いてゆきなよ

工房月旦にて、鈴木博太さんに2015年3月号の「この街を〜」「ページ捲る〜」の評をいただいています。