未来2016年2月号

さるすべりの花殻は手に溢れつつ悲しみをまたかなしんでゐる
ふつつりと途切れた箇所から惜しみなく光を洩らすランドルト環
かたつむりは進化論の先端をゆく銀いろの航跡曳きながら
いつしんに光をはじく鱗もつ海とは体躯のおほきな魚
その光その鋭さでわたくしの瞼をいつそ縫ひ留めてくれ
黄昏は暁に逢ふこともなくその生涯を暮れてゆくのみ
一歩また一歩と末期(まつご)に寄るこころ振り向くならば花の季節に
地平から穏やかに陽は射しこんで朝はこの部屋を美しくする
仏語からは憂鬱(カファール)の名を与へられわたしの床を這ふごきぶりよ

2015年度の未来年間賞を受賞しました。この号に選考経過が掲載されています。