未来2013年6月号

「ふもとに眠る」
部屋といふどこかちひさき水槽のオブジェの内にあなたは住まふ
あしの指の先よりみづに浸すときこゑを聞きたり くるしき水の
踵よりやはらかき水したたらせ春のゆるみよいづこより来る
水紋のごとくシーツの広まりて眠りの岸へ辿り着きたり
立つたまま本を開いてゐる人のふもとに眠る 覚める日までを
潮が満ちやがては引いてゆくやうに眼球面もからびゆくべし
手の甲にあなたの唇を受けしまま生まれ変はりの雨となりにき
ゆふぐれの速度で町を駆け抜けるあなたの貌を覆ひにゆかな

海彼通信にて、「作者の才気が美しく表れた一連で、三首目などの独特のゆったりした空気感に魅かれます。他の作も飯田さん独自の文体が生まれつつあるように思う。」と書いていただきました。
工房月旦にて、美濃和哥さんに2013年3月号の「花束を手にした人とすれ違ふ 祈りの数だけ戦場がある」について、美しい評をいただいています。どうもありがとうございます。