2015-01-01から1年間の記事一覧

未来2015年11月号

蒸し鶏のバジルパスタがわたくしの前に来るまでの遥かな旅路 喩とはさうすなはち贄のことだからようく選んで枝に刺すのよ 年上のひとの発話を待ちをれば耳許へ押し寄せるさへづり 読みさしの本を伏せるやうに目を閉ぢてそのままいつてしまふのだらう 祈ると…

未来2015年10月号

湖の奥処を覗き込むやうにベッドの柵に指をかけたり 覗きこめばあなたは祖母の貌をして水の底よりわたくしを見る 海の見える病室にきて横たはるあなたに海のことを告げない 記憶には出口がないと思ふとき道の先にて微笑む祖母よ 手のひらから記憶を零しなが…

未来2015年9月号

いもうとと互ひの爪を比べ合ふまちがひ探しをしてゐるやうに 日曜を恍惚とねむる妹にふれふれ赤い砂、白い花 玄関の水辺にくるぶしまで浸かり父親が言ふ いつてらつしやい これは違ふ星の重力 歪(ひづ)みつつゆるく何度も指を繋いで 磨かれた床に逆さの部…

未来2015年8月号

一世かけて仕える人のをらずしてこの夜にただ跪くのみ 炎から生まれ炎へ還りゆくあなたをこの胸に眠らせる もつと上へ 鋭く細い嘴で天の喉(のみど)を掻き切るほどに まなうらにあなたを思ひ描いては炎のまへに目を瞑りたり 向かふ先をゆくべき道と思ふこと…

未来2015年7月号

換気扇のしたで煙草を吸ふきみが煙になつてゆくまでを見る 横断歩道渡りゆきたる鳩が尾を引き摺りさうで引き摺らぬまま 結末をなくした物語のやうな湖岸を日暮れ過ぎまでめぐる ゆふやみを幾度も指の間より零し残りしものを夜とは呼ばず 一日の終はりにはづ…

未来2015年6月号

瘡蓋のやうな旧姓剥がれずに呼ばれればまた立ち上がりたり 仕事場は六階マンションは五階 ひねもす春の空中に浮く みづからのはうへと向けて擦るマッチ 胸には容れることなきほのほ 夕映えはいつも後ろに手を振るがその貌をまだ見たことがない 流線を描くレ…

未来2015年5月号

「スプリング・オブ・ライフδ」 木香薔薇の配線は入り組みながらすべての花を灯してゐたり にはたづみに降る雨のひとつ一粒が底の澱みを巻きあげてゐる さんずいのごとき飛沫を蹴散らして鳥が飛びたつ春の波涛を 水の中にみづのわたしがゐるやうに真夜中きみ…

刀剣男士×短歌

四月半ばにこんなものを作っていました。【刀剣乱舞】「刀剣男士×短歌」イラスト/アヤノ [pixiv]ゲームに登場するキャラクターと、これまでに「未来」に載せた歌を合わせはじめたらだんだん楽しくなってきて、最終的にこうなりました。わたしにとって短歌を…

未来2015年4月号

「めぐり、めぐるΓ」 黄金(きん)の鍵と思ひてゐたり床に落ちしパンの留め具を手に取るまでを ゆつくりときみが砂地に倒れれば影のかたちはきみに似てゐる 藤の花したたるままに手に受けてそのひとすぢを口に含みぬ 首もとに纏はる真綿ひき千切るやうに結ん…

「歌壇」2015年5月号

書きそびれていたのですが。 4月14日発売の「歌壇」5月号の特集「次代を担う注目の新星たち」に、「雨があがる」7首とミニエッセイを寄稿しました。

未来2015年3月号

ハルとシュラ、姉妹のなまへのやうに呼ぶ しづかな声でもう一度呼ぶ 空に釘うちつける音ききながら日曜おそい朝に目覚める 妹よあなたにあげられるもののすべてのなかに兄がゐること ショベルカーのアーム動くを見下ろしぬあれはあなたを抱けない腕 知つてゐ…

未来2015年2月号

いくつもの目が開いては閉ぢるのを見てゐたあめの湖面をまへに 真向かひて頬とほほ寄せあふときになにか刺し違へてゐるやうな 水とわたしが出会ふべきただ一点に唇よせてゆくウォータークーラー カーテンをあけて眠ればこの部屋の夜はうつすら輝いてゐる よ…

未来2015年1月号

冬の陽のやはらかく差す図書館にわたしが目覚めるのを待つてゐた ありつたけの海を満たした眼にはこの街の灯はひどく寂しい くれなゐの金魚ほのほの如く揺れ蓮の葉蔭に消えてしまへり ここにゐないひとの上着の両腕が椅子の後ろに結ばれてゐる 新宿を雨後の…

未来2014年12月号

「ライティングβ」 吸ひながらまた吐きながらいちにちは余白の多いページのやうだ 傘の字はとつても差しやすさうなのに雨のわたしの手に傘がない 嗅覚が鈍くなつて、と書くときのまたたく視野のかたすみに犬 書くことは足を向けるといふことで川の向かうの工…

第二十六回歌壇賞(候補作)

これを書いているのは実は2015年の5月なのですが、書き忘れているのに気づいたので書き足しにきました。(忙しくて書いている暇がなかったのでした)「歌壇」2015年2月号に、第二十六回歌壇賞候補作として「都市と記憶」(三十首)を掲載していただきました…