未来2013年9月号

「ゐない人」
見立てとは美しい森どこからか知らない鳥の声が聞こえる
遥かなる午睡の果てに泳ぎつくロングアイランドアイスティーへと
日溜まりは踊る あなたの爪先を十数センチ離れた床で
まぶしさも眩暈もとうにうしなつて死ぬのはとてもさびしいことだ
水泡の昇りゆきたる明るさに手を翳しつつ見上げてをりぬ
ベッドサイドに腕を垂らせばゆびさきが水面にふれる やがて君にも
ひるがへる魚影にはかに濃くなりてそれはあなたの腕(かひな)であつた
触れてゆくそばから指が泡になる君はどこにもゐない人だな
永遠に手の届かない水辺から離ればなれになるわたしたち

以前参加させていただいたネットプリント「みずつき2」(こはぎさん企画)で出した五首を再録させていただきました。後半五首です。
海彼通信にて、「喪失感が深みをもって歌に宿っている。」と書いていただきました。
工房月旦にて、美濃和哥さんに2013年6月号の「水紋のごとくシーツの広まりて眠りの岸へ辿り着きたり」について、桝屋善成さんに「ゆふぐれの速度で町を駆け抜けるあなたの貌を覆ひにゆかな」について評をいただいています。
また、小林久美子さんによる5月号アンソロジーに、「円環はこはれやすしと思ふとき君が腕にて眠るかなしさ」を再録していただいています。どうもありがとうございます。