未来2013年2月号

「春の死」
時差のない言葉をきみと交はしつつ君の町より雨雲はくる
夜明け前の会話はときに砂まじり 風の向かうにあなたはゐたが
ひとなんてみいんなおろかと言ふけれどそのスイッチを押してはいけない
父君は、母君はと問はれるときにわたしを溢れてしまふ王国
揺れやまぬたましひ胸に炎えながら生とはいかなる滅びのことか
あしゆびの間(あい)を満たして澄む水よお前もきつとたれかの嘆き
それもまた暗喩のひとつ 黄昏(くわうこん)に溺れる桟橋を遠ざかる
笑まひつつ棹さしすすむ船頭は君だつたのか街をしづめて
みひらいたまま見届ける からだ中のすべての水が燃え上がるまで
覚えていてくださいますか春の死をあくる日の美しいわたくしを

大きな物語に立ち向かう詩情。四首目に魅かれるが、五首目のような激情の歌にも特色がある(海彼通信より)。
はじめての全首掲載。