未来2014年3月号

「射手座と春」
腕を伸ばしゆつくりと背そらしゆく我はいつかの戦場の弓
朝への弔ひとして底冷えの路上に落ちてゐる百合の花
奔馬ゆく一瞬のそのまなざしがわが胸底を照らしてゆけり
最奥に燃えつづける火 心臓と名づけたき炉をあなたは抱いて
対岸よ 手の届かないところからあなたは花を降らせてくれる
視界の端やぶられたかと思ふほど溢れくるなり菜の花の黄
口々に春うたふべく咲く花のひとつを選りて耳もとに挿す
ぼんやりと花のかたちに手を垂らしきみは歌などうたつてゐたが
競ひあふやうに咲きたる花たちはその身を春に捧げてしまふ

射手座ネットプリントの再録を含みます。また、連載「梟の鏡」にテーマ「扉」で書かせていただきました。