未来2015年2月号

いくつもの目が開いては閉ぢるのを見てゐたあめの湖面をまへに
真向かひて頬とほほ寄せあふときになにか刺し違へてゐるやうな
水とわたしが出会ふべきただ一点に唇よせてゆくウォータークーラー
カーテンをあけて眠ればこの部屋の夜はうつすら輝いてゐる
よく冷えた素足で半歩踏みだせば死後とは広い草原だらう
限りなく綺麗な朝のつめたさにバターナイフを丹念に砥ぐ
胸腔に鳥の不在を飼ふやうに大きく息を吸ひ込んでゐる
ふかぶかと空を吸ふときわたくしの肺胞ちさくそよいでゐたよ
かき上げる髪のひとすじ一筋をひかりが奔る春の古書店

みらいプラザ掲載でした。未来年間賞で上位に推していただいています。