未来2014年4月号

「花箱」
父の背のやうなる坂をのぼりつめどうしてここが地獄だらうか
ひざ立ちで迎へる春のゆふぐれにわたしよ胸をひらいて笑へ
触れてゆくそばからわれを鍵盤にしてしまふ指、風の指さき
見ひらいた眼に降る雨が眦をあふれるまでを草原に死ぬ
くおんくおんと森の泉の湧くやうに眠りはわれを溢れいでたり
指と指のあひだにあはく死を透かしアポトーシスは夜明けの単語
あたらしい銅貨のやうに少年の自転車(バイク)は坂をくだつてゆきぬ
xoxo(キスアンドハグ) それからの僕たちが耳朶のかはりに噛むタブレット
なけなしの心とともに捧げもつ花箱はきみに向け開きたし

二〇一四年新年会シンポジウム報告および、「未来歌人のこの一年」の15回目、佐伯裕子さんについて書かせていただきました。真里子ちゃんと並んで嬉しい。
気がつけば四月も下旬です。